些事記

放浪の身で僭越ですが、語らせてください。

坐骨神経痛と旅をする

 坐骨神経痛とはさまざまな理由により骨盤から下腿にかけて走る坐骨神経を刺激することによって起因する痛みの総称である。梨状筋症候群、椎間板ヘルニアなど、ほかに様々な原因がある。要するに坐骨神経痛とは「骨盤から足にかけての痛み」のことで、僕はかれこれ一年以上坐骨神経痛に悩まされている。

 僕が自分が坐骨神経痛のことを知ったのは半年前ほど前のことだ。家庭教師をしている生徒のお母さんに「ずっと前からふともも周辺が、しびれたり痛かったりするんですよね。」と話していたところ。「それ、坐骨神経痛じゃないですか?」と。家に帰って坐骨神経痛について調べてみるとぴったり自分の症状に一致する。今まで原因不明の痛みとして捉えていたものに名前を与えられたのはとても嬉しかったし何より安心できた。自分の他にもこの痛みに苦しんでいる人がいるというのは、僕を前向きにさせた。「何かわけのわからない痛みに自分だけ苦しんでいる」という感覚はとても絶望的なものだった。そしてネットで調べた柔軟運動などに取り組んでうちにどうやら自分には梨状筋症候群が原因の坐骨神経痛が発生していることを発見した。

 しかしなぜ自分が坐骨神経痛に苦しんでいるのか。これが思い当たる節はいくらでもあるのだ。長身且つ猫背、悪い姿勢での読書、自習室でのバイト(備え付けの椅子がオンボロで小さくて体に負担をかけたんだと思う)、そもそもの不養生、引っ越し(業者に依頼せず自分でした)などなど。知らず知らずからだに負担をかけ続けた結果、腰痛に悩まされ始めたのが去年の冬の暮れ頃だった。きっかけとなった動作など一切覚えていない。兎に角尋常ではない痛みに冷や汗が出て、横になる体制以外を取れなくなった。からだを動かすのが怖くてひたすら横になっていた。この時は下半身に痛みは無かった。

 しばらくしてなんとか老人みたいに腰を曲げながらなら動けるようになったので、近くの整形外科に行った。レントゲンを取らされ触診され。取り敢えず骨に異常はない。何が原因かわからないと言われた。家族に相談しても「腰痛はそんなもんや。原因はいつもわからんねんや」と言われた。そうしたらどうやって治せというんだと思った。

 それでも数週間後にはイラン行きが控えていたのでなんとかしなくてはと思い、(このころはそのぐらいで治るものだと思っていた)整体に通い始めた。街中でよく見る整体の看板を見てはこの施設は一体何のためなんだろうと不思議に思っていたので、初めて入る時は興奮した。

 整体師さんにとにかく背中が痛くて少しでも周辺の筋肉を使うと激痛が走るということを説明する。すると台の上に俯せに横になる。背中に電極を貼られ、ビリビリと電流が体に流れる。これがなんとなく心地いので「もっと強くしてもらって大丈夫です。」と調子にのると稲妻に打たれたみたいな痛みがくる。それでもあの装置は自分でも欲しいぐらい心地良かったなぁ。電気で筋肉を緩めた後、整体師さんに直接治療してもらう。

 整体の体験は僕にとって興味深いものであった。背中から全く遠い足の一部を押すと背中の痛みがなくなったり。足の一部を押しながらだと深く前屈できたり。整体師さん曰く「からだは繋がっている」のだそう。僕はそれを身をもって体験した。

 整体を二週間ぐらい通い続けると、腰の痛みはだいぶらくになって、歩いたりはできるようになった。そうしたら次は足が痛くなっているのに気づき、足と指摘されていた猫背も治療することになった。しかし僕はイランに行くのをすでに2週間遅らせていたので早く行きたくてうずうずしていた。治療半ば、僕はイランに旅たった。飛行機の中は地獄だった。