些事記

放浪の身で僭越ですが、語らせてください。

ヤンキー犬

連日ホステルで飲みまくって翌日は12時に起きる規則正しい生活を送っている。このような生活を続けていると頭と体がお互いを見失い、しばらくすると何方かが迷子になる。そんなイェレバンでの週末で、仕事見つけなくては行けない。ゲイに追いかけられている。身体の調子も良くない。こりゃいかんと思い、ランニングに出かけた。
 
 走り出すと、久々に自転車に乗った時みたいな気分になる。自転車の操縦を忘れているように、走り方も忘れているのだ。そして自分がこんなに早く移動することに驚く。
 少し離れた橋まで行ってみる。テヘランと比べて空気が綺麗ではあるが、やはり首都だ。大きい道路にいくと「おいしい」空気では絶対にないことを思い知る。橋を渡ると側に階段を見つけた。オーサーが橋の近くから川沿いのランニングコースがあると聞いていたので降りてみた。道路から離れるだけで空気が一気に澄む。気持ちよく走っていると、行き止まりに見つかる。ずっと走っていたかったので少しがっかりして止り、くるりと振り返り歩いて行った。
 するといきなり犬の鳴き声が僕のうしろからした。「ワンワン」と、可愛いものではなく、「バウバウ」という野犬の鳴き声だった。すこしびっくりして犬と目を合わせた。うるさいなぁと思ったが、対して相手もせずに、そのままゆっくり歩いて行った。しかし音は近づいて来くる。しかも一匹ではなく複数。声の数からして3匹目もいたかもしれないが目では確認していない。
 その時は息も切れていたし、なにより対して気にも止めていなかったから相手をしなかった。しかし暫くあるいてもまだ吠えながら僕のすぐ後ろを追いかけてくる。犬の真剣さに対して少し怖気ついた。その瞬間一匹が(多分こいつが群れの長みたいな存在だろう。率先して僕を追い詰める)声量を上げた、が、「声量」の他に確実になにかがあった。ヤンキーの「なめてんのかこら!」とか、叱咤、先生の説教に欠くことのできない「迫力」が確かに存在したのだ。犬にも、畜生にもここで勝負しようという気概と戦略があるのかと感心するばかりである。
 これに一驚を喫した僕は、気づいたら本気で走り始めていた。犬と人間の駆けっこである。当然簡単に追いつかれる。犬の恐ろしさを知っているので、それなりに恐怖した。だが、噛まれたら直ぐに病院に行って狂犬病の検査をしてもらおう、と考えるぐらいの余裕はあった。
 2分ぐらい全力で疾走していると大きい道路に出ることができた。たくさんの車に驚いた犬たちは、追いかけるのをやめて、立ち止まり吠え続けた。僕も速度を落として、犬に追いかられるアジア人を不審そうに見つめる夫婦に向かい半笑いした。